アドセンス2

2014年1月23日木曜日

【評/感想】『ドラッグ・ウォー 毒戦』「公安の検閲?そんなの関係ねえ!」ジョニー・トーは中国でも健在!



19世紀の英国は、インドから大量のアヘンを中国に持ち込み、国民をアヘン中毒にすることによって亡国へ追い詰め、阿片戦争で勝利すると数々の不平等条約を結ばせた。この歴史的トラウマは未だに中国では根強い。覚せい剤50gの所持程度なら、日本では懲役7年が相場だが、中国では死刑となる。

そうは言えども、金になる麻薬ビジネスは中国でも盛んに行われており、昨年は広州で大規模な覚醒剤工場が摘発された。その末端にいた愛知県の市議が、日本への輸出を行い逮捕された事件を記憶されている人も多いだろう。

ジョニー・トーの新作『ドラッグ・ウォー 毒戦』は中国麻薬シンジゲートと、公安警察の麻薬捜査官の熾烈極まる闘いを描いた一本だ。結論から言うとストーリー、アクション何をとっても最高な映画だった。

覚醒剤の密造で捕まった男を減刑と引き換えに捜査へ協力させ、麻薬シンジゲートに潜入捜査を行い一網打尽を図るというのが大まかな筋書きだ。
ジョニー・トー作品といえば、ダンディな男たちがなにかプロっぽいことを考えている顔つきで、行き当たりばったりに物語が進んでいくが、それがメチャクチャに面白いというパブリックイメージを持たれているが、『ドラッグウォー』は『エグザイル/絆』などと比べると天と地ほどストーリーの密度が違う。
捜査協力者の企み、公安警察の意図、麻薬シンジゲート、そして数々のイレギュラーという多くのアクターの思惑が交差するサスペンス要素がこの作品の魅力なのだ。煩雑になりそうなほどの展開の応酬だが、観客にストレスを感じさせずに分かりやすく捌かれている。

ジョニー・トー自身が告白するように、この作品は幾度も中国公安により手直しを余儀なくされた。最も分かりやすいのは、この作品において覚醒剤は、死をもたらすだけの薬という側面だけで享楽的な部分は一切でない点だ。しかし、ジョニー・トーは当局の目を掻い潜り中国の実情を訴える。

覚醒剤の工場で働いてるのは、聾唖者たちだ。人権整備と、市場経済の歩調が揃わない中国で障害者の居場所はない。文字通り「アウトサイダー」だ。そんな彼らは闇ビジネスに手を染めるほか生活は困難なのだ。彼らは人情に溢れ、他人の不幸に心を痛める善良な人物として描かれている。言うまでもないが、挑戦的だ。

しかし、そこで終わらないのがさすがジョニー・トーと言われる所以だ。我々が完全に油断したところで、彼らにとんでもない行動をさせる。このシーンは、半端じゃなくカッコいい。是非劇場でチェックしてもらいたい。

また、今回ひと味違うなと思わせる場面は麻薬捜査官が製造業者に扮し、マフィアと取引を決める会話劇だ。アウトレイジさながらの言葉と言葉のぶつかり合いが非常にアツい。劇中に「山王会の北条武」という人物が言葉だけだが、登場する。もしかすると、トー自身がアウトレイジを意識しているのかもしれない。


またお馴染みの皆殺しガンアクションは健在だ。いかにも、「中国っぽい!」と思わせるロケーションでの撃ち合いは誰もが興奮してしまうことだろう。

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