アドセンス2

2014年8月20日水曜日

【評/感想】『クイーン・オブ・ベルサイユ』夏にピッタリ! 大富豪、大転落ムービー!

「金持ちなんて・みんな・糞食らえさ。」(村上春樹『風の歌を聴け』p14より)



8月が来るとこのセリフを思い出す。うらびれたバーで25メートルプール一杯分のビールを飲むことしかやることのない、そんな夏が来る度に僕はこのセリフを思い出す。(僕は実際の所バーには行かないけれど)

夏とは金持ちへの憎悪と背中合わせなじゃないだろうか?
ハワイのビーチでピニャコラーダを飲んで、イカした女にサンオイルを塗ってもらうこと。あるいは、北海道の山奥にこもって小説を書くこともお金がないから出来ない。時給869円の僕は、鳥貴族で金麦大ジョッキを飲みながら、ビル・ゲイツや電通の悪口ばかりを言っている。そんな、ささやかな自己療養だけが出来る全てだ。

アメリカ最大の家が、廃墟になるまで




『クイーン・オブ・ベルサイユ』は、夏をいくらか楽しくしてくれる映画だった。なにせ、アメリカ最大の家ベルサイユ―を建設する超ウルトラビッグバン級のセレブが、どん底まで転落する様を描いたドキュメンタリー映画なのだから。

転落も凄まじいが、まずは超豪邸ベルサイユが凄い。
8300m2という規模に、13のベッドルーム、25のバスルーム、30のガレージ、2つのボーリングレーン、屋外プールが3つ、屋内プールが2つ、さらにゲームセンターと、500人を収容できる舞踏場、そして映画館が2つ。
小学生に「理想の家は?」と画用紙を渡して書かせたものの方が、もう少し現実味があるのではないだろうか。



家の総工費は100億円に上るものの、この家を建てたウェストゲートリゾートのオーナー・デヴィッド・シーゲルとその妻ジャックリーンにとっては些細な額にすぎない。というのも、リゾートの会員権事業で財を成した彼らの年収はなんと1000億円だというのだ!

この映画の企画がスタートした2007年当時は、単にアメリカ最大の家が出来るまでを追うドキュメンタリーという趣旨だった。しかし、2008年のリーマン・ショックから引き起こったサブプライム危機がシーゲル家を揺るがしたのだ。

ローンでの支払いで購入させていた会員権の債権は焦げ付き、さらに生活にもっとも不要なバカンス費用は不況の中で真っ先に切り捨てられたのだ。総資産1800億円のシーゲル家は一転し、1200億円の借金を背負ってしまう。

欲望に片足を乗せろ!




「欲望に片足を乗せてしまえ!そうすれば客は買うんだ!」
リゾート会員権販売のスローガンである。
セールスマンは、顧客をゴージャスなリゾートホテルに連れて行き、「10年分のバカンス費用を一括で払うだけで、セレブな気分が一生味わえるのです」と説得し、契約に結びつけるのだ。狂乱にアディクトさせるのだ。

面白いのは、シーゲル家が自らの経営方針にもっとも中毒になっていることだ。1200億円の借金を追いながらも、バブルの幻影を追い続ける。ベルサイユも手放そうとは決してせず、「節約のために」とロールスロイスでマクドナルドにハンバーガーを買いに行く。

だが、結局は銀行による強制執行が行われ、本社ビルとベルサイユは差し押さえられてしまうのだ。ベルサイユは未完成のまま。
巨大で、未完のその家は、サグラダファミリアになぞらえて「ガウディ」と呼ばれているという。


この映画をみながら飲んだビールは一段と美味しかった。
(なんとなく、村上春樹っぽく書きたかったけど難しかった)