アドセンス2

2014年4月9日水曜日

【評/感想】実写版映画の新時代!あの押井守が帰ってきた!『THE NEXT GENERATION パトレイバー』



一流のコメディ作家としての押井守が帰ってきた。『うる星やつら』の、『御先祖様万歳』の、そして『機動警察パトレイバー』の押井守が帰ってきた。

『攻殻機動隊』や『イノセンス』は映像美と高度な思想性で評価されたものの、多くの観衆にとっては難解極まるものだった。そして、近年まで押井守の作風はそれらと同様に難解で、悪い言い方をすれば退屈と言われるような作品が多かった。

だが、この作品の一シーンで押井守は宣言をする。現代思想、哲学の著作(フーコーとジャック・デリダ)を名指しし、彼は「眠くなる本」と言ったのだ。このシリーズ群では難解さを捨て、エンターテイメントに徹することを誓ったのだ。

未だ根強い人気がありつつも、2002年の映画『WXIII 機動警察パトレイバー』移行音沙汰のなくなったシリーズがこの度、実写化としてリブートした第一本目。60分の上映時間を二分割し、エピソード0で過去のシリーズとの接続を描き、エピソード1で新キャラクターたちの紹介と物語の再始動を行っている。

今の説明の通り、この『THE NEXT GENERATION パトレイバー』は紛れもないテレビや長編映画作品の続編だ。そのためただの実写化だと思っていくと面を食らうかもしれない。

アニメーションの続きを実写で映画化するというとてつもない課題を可能に出来たのは押井守という監督だったからということに疑いない。彼は「映像は映画を作る素材にすぎない」と考えている。つまり、アニメーションであるとか、実写であるということを過度に問題にしない。ただ、全体を通じたリアリティを押井守は設計していく作家なのだ。

アニメーション版では、ロボットが現実にいる世界をそれまでのアニメとは類を見ないような人間の生活感を描くことによって独自のリアリティを産みだした。
一方今回の実写では、人間の身体が否が応でも醸し出す現実感をコミカルなSF描写によって臭いを消し、フィクションさを強める演出を行っている。

2つは工程としては、全く対局のアプローチを行っているものの、計量的にはアニメーション版と実写では両者が等しいだけのリアリティレベルのもののように感じる世界観を構築させたのだ。

だからこそ『THE NEXT GENERATION パトレイバー』は実写でありながら、続編としてアニメーションと全く同じ感覚で見ることが出来る。
これまでマンガやアニメの実写化は、どれだけマンガ通りに再現するか、あるいはダークナイトのように現実に則したものに落としこむかの二択だけしかなかったが、この映画は第三の道・計量的に世界観を作るという全く新しい実写映画の地平を開いた。

これだけ斬新なアプローチで実写版を撮影するにあたって、第一章は大部分がかつてのパトレイバーのオマージュだ。OVAアーリーデイズのイントロダクションをそのまま実写化してみたり、TV版17話の後藤隊長の名演説を完コピさせてみたりとかつてのファンなら必ず笑ってしまうツボを抑えている。きっとこれらは一種のリハビリ的なものだろう。

しかし、そんな肩慣らしに留まらない。アニメーションでは作画の都合で描かれなかったより細かなレイバーにまつわるフェティシズムを丹念に作りこむ。キャリアに乗り込むときには人の肩を借りたり、レイバーの高さまで巨大なはしごを掛けたりと実写ならではの作り込みが多数ある。

そして、それだけ運用の苦労を描くことを積み重ねることによって3Dモデルのイングラムがただ動くことにすら我々はカタルシスを感じる。

THE NEXT GENERATION パトレイバー』シリーズがこれ以降どのようになるかは全く想像付かないが、少なくとも私はこの一章に限れば大傑作であると確信し、何度も見る映画の一本に加わった。


パトレイバーファンの諸兄には強くおすすめする。