アドセンス2

2013年12月31日火曜日

『もらとりあむタマ子』 終わらない夏休みは、モラトリアムではない

23歳大卒ニートのたま子が家でグータラしている様を描いた作品。それ以上でも、それ以下でもない。
だが、それがとても心地いい。
食って寝てのたま子の生活感がたまらなく愛らしいし、ニートならではの親との会話は(胸が痛くなりつつも)笑わせる。女の子観察型、非ドラマ的映画ということで萌え日常アニメなんかとすごくテイストが似ている。
スローで、間を大切にし、家庭劇ということもあり「みなみけ」なんかを私は思い出した。
ファンであらずともこの映画の前田敦子には萌えてしまうはずだ。

ただのグータラ映画と思われがちだが、山下監督はモラトリアムというものに良き示唆を与えてくれる。
モラトリアムの元来の意味は、義務の留保を意味する。大学生がモラトリアム期間と言われるのは、本来果たすべき労働を退け、他のことを行っているからであって、その後何もしなければモラトリアムと言われるに値しない。

たま子の父親は、たま子に「就職しろ」「家を出て行け」と言う事を次第にやめ何も言わなくなるし、「今のたま子のままでいいんだよ」とむしろずっといて欲しいとすら思ってしまう。
そんな父をたま子は「父親失格」と蔑む。「いまここ」という場所にどうしようもなくうんざりしていながら、どうしようもなく抜け出す努力を嫌がっているのだ。そして、いまここをモラトリアムへと変えてくれるための果たすべき義務を必要としていたのだ。

AKBをやめ、女優業に本腰を入れる前の充電期間のような現在の前田敦子だから輝く一本だ。また、そんな輝きに重要な働きをしてくれたのが近所の中学生役の伊藤くんという役者。セリフの一つ一つも素晴らしいのだが、13歳の彼の少しずつの成長がものすごくいい味をだしている。最初は、ほとんど小学生のような彼が気がつくと顔にニキビが出来てたり、すこし輪郭ががっしりしたりと、本当に時間が経っている事を感じさせてくれる。


黒沢清監督、前田敦子主演「セブンスコード」がとても待ち遠しい。きっとモラトリアムを脱した前田とあえるはずだ。