アドセンス2

2014年2月9日日曜日

【評/感想】『スノーピアサー』設定の甘さ、ガッカリSFの典型



東京で45年ぶりの27センチの積雪が観測された201428日、そんな真冬に相応しい映画『スノーピアサー』が封切られた。

2014年夏、行き過ぎた地球温暖化を止めるため国連は大気冷却装置を打ち上げる。しかし、それは裏目に出てしまい地球は氷河期となってしまい、地上の生物は絶滅してしまった。一台の列車を除いては。
車掌であり設計者のウィルフォードがつくったその列車は、地球を一年間で一周し、永久機関のエネルギー源をもち、そして内部のエコシステムは一台の列車で無限に循環可能なのだ。それはまさしく小さな地球そのものだ。

列車の内部は生態系を崩さないために人間を部品のように扱い、一定の持ち場を与えられたなら、そこから離れることは許されない究極の身分制社会が敷かれている。

主人公のカーティス(クリス・エヴァンス)は、ヒエラルキーの最下層として列車の最後尾に暮らしている。劣悪の住環境、食糧は羊羹のようなプロテインブロックのみ(これにはおそろしい秘密がある)、彼らは上の階級から絶え間ない監視と暴力に曝されていた。カーティスは長老のギリアム(ジョン・ハート)、列車のセキュリティ設計を行ったナムグン・ミンス(ソン・ガンホ)と革命を企てる。

監督は、『グエムル-漢江の怪物- 』などで知られるポン・ジュノ。本作は、韓国だけでなくアメリカ、フランスの資本と合作で作られた。昨年世界に先駆けて先行公開された地元韓国では批評家からの評価も高く、第33回Korean Association of Film Critics(KAFC) Awards 最優秀作品賞、最優秀監督賞、撮影賞を受賞したという。

これらの高い評価とは裏腹に全ての面において煮え切らない、中途半端な作品だというのが私の率直な感想だ。

その理由は根幹部分の設定の杜撰さが、物語のあらに直結しているからだ。
「この列車は完全なエコシステムがある」と物語のなかで、はっきりと宣言されれば当然その内実を知りたいし、その生活を知りたいだろう。しかし、そういった物語を支えるリアリティが完全に欠如している。主人公カーティスの所属する最下層のライフスタイルすら全く分からない。たしかに記号的に酷い暮らしをしていることは伝わるが、裏打ちする設定が皆無なためにSF世界への導入を拒んでいる。

また、この映画で期待するのは前の車両に行くほどに身分が高くなっていく様が見えるような描写なはずだ。しかし、最下層以外はみな同じように暮らしている。いや、暮らしているという言葉も適切で無い。あからさまな快楽主義者にみせるような、クラブで踊っている人、ラウンジで酔っ払っている人ばかりが映る。彼らの住環境は一切浮かび上がってこない。

それに、見るからに薄汚い反逆者が後部の車両から来ていると分かっているにもかかわらず、戦おうともせず、はたまたパニックに陥る様子もない。この点に合理的な説明をつけないのはご都合主義のストーリーテリングと当然言われるべきだ。

もちろん、評価されるべき点も多い。発端となる暴動の描写は、列車という直線的な特殊環境を極限まで活かした名シーンであると言っていいだろうし、『ナルニア国物語』で雪の女王を演じたティルダ・スウィントンはメイソンというアクの強い大統領を得じているのだが大変なハマり役だ。
また、ポン・ジュノ特有の抜けのある独自のギャグは良いアクセントとなっている。

悪い所に全て目を瞑ればたしかに高い評価に納得はいく作品だ。しかし悪い所に対して目を開く事こそ批評ではないだろうか。ポン・ジュノ監督の今までのフィルモグラフィーとくらべてあまりにもディテールの作り込みが弱すぎる。
映画としてより良くなる可能性を潰した勿体無い作品となってしまった。


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