シド・ヴィシャスとナンシー・スパンゲン。カート・コバーンとコートニー・ラヴ。あるいはカップルで連続猟奇殺人を犯したイアン・ブレイディーとマイラ・ヒンドレー。世の中の狂ったカップルたちは、時として我々の心をわし掴みにして離さない。
映画『好きっていいなよ。』は、伝説的なカップルらと並んで遜色ないよう狂った恋愛を描いた素晴らしい映画だ。まだ夏は始まったばかりだが、僕はこの映画こそ、この夏”最狂”の映画だと断言しよう。
ん?『好きっていいなよ。』は、葉月かなえが講談社の少女漫画雑誌「デザート」で連載しているピュアな恋愛モノだって?
そんなことは気にするな。
トラウマ少女・橘めい
壊れたスロットマシーンのように、この映画は終始笑いどころが連続する、ハイテンションギャグ映画すぎて語るべきポイントが多すぎる。ひとまず、キャラクター紹介といこう。
川口春奈が演じる16才の高校1年生の少女”橘めい”が、この映画の主人公だ。「友達なんて都合がいいときだけ近くに来るだけで、いつか必ず裏切られる」と宣言し、頑なに友達を作ろうとしない。というのも、あるトラウマが原因だというのだ。
問題:橘めいのトラウマとは何でしょうか
答え:クラスで飼っていたうさぎの飼育ミスの濡衣を着せられたから
そうだよね!うさぎの飼育ミスを擦り付けられたら、当然傷ついて、一生友達はいらないとか言うよね!重々しい顔で「友情なんて偽りにすぎない」とか語っちゃうよね!
そんな可哀想な橘めいは、学校でイジメられている。文化祭で学校が賑わっているなか、後ろから猛タックルをされる程あからさまにイジメられている。
性欲王子・黒沢大和
イジメっ子の張本人こそ、この映画随一のキチガイ、黒沢大和くんだ。福士蒼汰が演じているので、僕はずっと仮面ライダーフォーゼと心のなかで呼んでいたが、残念なことにこの映画ではリーゼント姿も、ライダーロケットドリルキックも見せてくれなかった。しかし、そのかわりに、新しい必殺技を獲得したのだ。
その名も「オレ、チューしたくなっちゃった」
黒沢大和は、性欲の権化だ。むしろ、これから性欲溢れた人を見かけたら黒沢大和と呼びたいほどだ。
彼は理性というリミッターがなく、突如いかなる場所であってもキスを求める。ファーストキスは、高円寺の古本屋の前。次は、カラオケボックスを出てすぐの繁華街。その次は、渋谷宮下公園前の人通りの多い交差点で。さらには、卒業した中学校でまでキスをする。ムードも場所も「オレ、チューしたくなっちゃった」の一言でこの映画ではチャラなのだ。
場所を選ばずキスをするのだから、当然人も選ばない。なんと、黒沢大和くんは学校のほぼ全員の女子とキスをしたという伝説まである!
モテるという概念を超越したキャラクターだ。ビッグダディすら太刀打ち不可能な、まさに「種馬」と言っても差し支えないはずだ。
漢気金髪・竹村海
類は友を呼ぶという言葉は正しいものだな、と映画を見ながら思い知らされた。黒沢大和というキチガイの友達は、キチガイばかりだ。数多く出てくる精神病者的キャラクターの中でも、特に僕が紹介したいのは竹村海(市川知宏)だ。
金髪で、ちんこのメタファーかのようなビンビンに立たせたヘアスタイルだけで、かなりのパンチのあるルックスをしているが、彼はなんと高校を一浪で入学したというのである!
しかも、その理由が凄まじい。
中学時代に彼をイジメてきた相手をボコすため、「体を作っていたら、一年過ぎていた」(原文ママ)というのだ!
執念深いを通りすぎて、まさにキチガイと呼ぶに相応しい『好きっていいなよ。』ならではの独創的なキャラクターだ。
個人的には、『ファイト・クラブ』のタイラー・ダーデンと同等か、それ以上の漢気を感じた。
対決!ストーカー
この映画のシナリオは明らかに、ブルース・リー作品に影響を受けたものだ。橘めいと、黒沢大和というカップルが上手くいきそうだなとなると、たちまち新たな恋敵が現れて、そいつらをキスの力でボコボコにしていくという斬新なエクストリームラブコメだ。
しかし、さすがギャグ映画だ。敵がイチイチ面白い。まず始めの障害がストーカーである。
橘めいのバイト先のパン屋の常連のサラリーマン。しかし、ある時橘めいがバイトを終えて外を出ると、店の真正面に突っ立っているのだ。恐れ慄いためいは、一端お店の中に隠れて助けを呼ぶ。
さて、誰に呼ぶか。「困ったときは警察にカムヒア」とピーポくんに教わった僕は当然110番だと思ったのだが、橘めいは、黒沢大和を電話で呼ぶ。「友達なんか偽りだ」と言っていたのに!
まあ一応彼は来てくれるのだが、撃退法もまたエクストリームである。なんと、ストーカーの前でキスをするのだ!
僕がストーカーなら、自分の前でこれ見よがしにキスをされたら、より怒りのボルテージは上昇して殴りかかってしまうかもしれない。
しかし、この映画は現実と時空が若干異なるのかもしれない。黒沢大和は、キスした理由を「こうするしか無かった」と説明する。さらに、橘めいもそれを納得する。
嗚呼、人間とは何なのだろう。
最強の敵!ブス!
ストーカーに続く二人目の敵も強敵だ。武藤愛子という、黒沢大和の童貞を奪った相手だ。彼女の特徴はとにかくブスということに尽きる。しかも、グータンヌーボの時の江角マキコのように態度がやたらデカく、相手を呼ぶときは「てめぇ」だ。今まで多くの映画でヴィランを多く見てきたものの、ここまでふてぶてしく、苛つかせるキャラクターはいなかった。まあ、こいつもキスで解決だ。
リアル初恋ストーリー!?
この超次元すぎるエクストリームな恋愛に、爆笑させられっぱなしの2時間だった。もはや、この映画の完全にファンだ。そこで、原作らしいコミックスを買おうとした所、紹介文に驚かされた。
16年間、彼氏も友達も作らずにきた橘めい。ある日、誤解で学校一のモテ男・黒沢大和にケガをさせてしまうが、なぜか大和はめいを気に入って一方的に友達宣言。さらに、めいをストーカーから守ってくれたうえに、守るためとキスまでしてきて…!? 大ブレイク中の葉月かなえが描くリアル初恋ストーリー!
リアル初恋ストーリー!?
どうも『好きっていいなよ。』はリアルらしい。行き過ぎたコメディだと思っていた、この物語がである!
この映画のメインターゲットの中高生にとってはリアルなのか!?
僕はあまりにも年を取り過ぎているせいなのか?
リアルとは一体何なのだろう…
『好きっていいなよ。』は哲学的な余韻すら与えてくれる。
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