クリストファー・ノーランの商業作品第一作目の『メメント』から『ダークナイト・ライジング』まで、ノーランの右腕として撮影監督を務めたウォーリー・フィスターの監督デビュー作が『トランセンデンス』だ。
二人三脚的に同じキャリアを歩いてきた二人が作る本作は、実にノーランらしいテーマに満ちている。『メメント』以来繰り返し描かれる人間のアイデンティティの問題、『ダークナイト・トリロジー』で描かれた大衆監視や、超人、そして階級問題。キメラのように作品のそこかしこに、ノーランの刻印が刻まれているのだ。
まともに考えれば、一作品で描いてきたテーマを一挙にまとめて語ろうとしたって、語れるはずがない。そう思う反面、ノーランなら、あのノーランなら出来るのでは無いだろうかと強く思わされるのも事実だ。
実際の出来はどうだったか―――
まあ、無理だよね。
ざっくりと言えば、ジョニー・デップ演じるウィル・キャスター博士が、反AIテロ組織に撃たれて死亡。ウィルの脳みそを妻のエヴリン(レベッカ・ホール)がパソコンにインストールする。
ただ、ウィルといっしょに居たいだけというエヴリンの希望は案の定覆され、AIのウィルは超高性能の量子コンピュータをフル稼働し、たった数年で人類の手に負えないレベルの開発を何十も行う。
その最大の発明が「ナノマシーン」だ。空気中の自己増殖する有機細胞があらゆるものを再生させる。瀕死の人間を生き返らせたり、壊れた太陽光パネルを修復させたり、なんでも出来てしまうのだ!
しかも、そのナノマシーンはすべてジョニー・デップの意思で動くという、まさに最強設定である。さらにその粒子たちは地球全土にひろがってしまった!
FBIはドナルド・ブキャナン(キリアン・マーフィー)らをリーダーにチーム結成し、世界を救うべくウィルのアジトへ戦いを挑むのだ!
それが、これ。
ジープがたった7台ほど……
お前ら本気で世界を救う気があるのかよ!
クライマックスですらこのザマなズッコケ具合ということで、作品中幾度と無くどうしようもないお馬鹿なシーンが現れるわけだ。
そもそも脳みそをインストールしようとしている時に、マックス・ウォーターズ博士(ポール・ベタニー)というAI研究者で有りながら、テクノロジーの倫理を訴える男がそこに立ち会うのだが、エヴリンに「この部屋から出て行って!」と言われれば、超素直にお家に帰ってしまう。
なんという茶番!
ナノマシーンとインターネットによって、物理的にもウィル・キャスターは世界と同じ大きさの自己を獲得した。そんな男は人間と呼べるだろうか?という問自体には、新鮮さも、面白さもある。
ただ、この映画はその問を深めるどころか、考えるのもアホらしくなるようなお馬鹿シーンの連発だ。バカが哲学的なことを語っていることほど滑稽なことはない。(自分も例外ではないが)
この映画が教えてくれた唯一のことは、いくらそれらしきことを言おうと、語り手に内実が伴わなければ力は生まれないということだ。
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